仙台地方裁判所 平成2年(行ウ)4号 判決 1992年5月13日
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
理由
【事 実】
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告らに対し、昭和六二年一一月六日付けでなした健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格を同年一〇月三〇日をもつて喪失したと確認した各処分はいずれもこれを取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告らは、株式会社本山製作所(以下「会社」という。)に雇用された従業員であり、別紙目録記載の各番号をもつて健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格を有していた。
2 被告は、健康保険法及び厚生年金保険法に基づき、社会保険庁長官の行う保険者の事務の委任を受けているものである。
(本件処分)
3 被告は、昭和六二年一一月六日、原告らに対し、それぞれ同年一〇月三〇日をもつて健康保険及び厚生年金保険の被保険者資格を喪失したことを確認する旨の各処分をした(以下「本件処分」という。)。
(審査請求及び再審査請求の経由)
4 原告らは、昭和六二年一一月一九日、本件処分に対して、宮城県社会保険審査官に対し審査請求をし、同審査官は同年一二月二五日審査請求を棄却したので、昭和六三年二月四日、社会保険審査会に対し再審査請求をし、同審査会は平成二年四月二七日、再審査請求を棄却した。
5 しかしながら、本件処分は健康保険法一八条及び厚生年金保険法一四条に定める資格喪失事由がないにもかかわらずなされたものであるから違法であり、取消を求める。
二 請求の原因に対する認否
請求の原因事実1乃至4は認め、同5は争う。
三 抗弁(本件処分の適法性)
本件処分は、以下の事実関係に鑑みて、会社と原告らの間の使用関係が事実上消滅し、健康保険法一八条及び厚生年金保険法一四条二号の被保険者資格喪失事由を生じたものと判断してなされたものである。
1 原告らは、会社がロックアウトを解除した昭和四八年七月二六日から事業主である会社が届け出た原告らの被保険者資格喪失日である昭和六二年一〇月三〇日まで約一五年間、一日たりとも会社へ出勤し、就労した事実がなく、その間賃金の支払いを受けていない。
2 昭和四六年三月、原告らの所属していた総評全国金属労働組合宮城地方本部本山製作所支部(以下「全金本山支部」という。)の役員に対する配置転換命令等に端を発した労使紛争は、その後、同年八月、全金本山支部から本山製作所従業員組合(後に全日本労働総同盟本山製作所労働組合と改称。以下「本山従組」という。)が分裂結成され、さらに、昭和五五年には、全金本山支部から原告らの組織する全金本山労働組合(以下「全金本山労組」という。)が分裂結成され、全金本山支部と全金本山労組からの労働委員会への多数回の救済の申立てや、会社、全金本山支部及び全金本山労組の組合員からの多数回の提訴等を経ても現在まで解決にいたつていない。
特に、(一)全金本山支部組合員は、昭和四八年一二月一八日、仙台地方裁判所に、会社が行つた同年七月二五日付け別棟就労命令の効力停止等の仮処分を申請したが、同裁判所は昭和四九年一二月一九日右仮処分申請を却下したこと、(二)全金本山支部組合員は、昭和五〇年二月二一日、仙台地方裁判所に別棟就労義務不存在確認、賃金支払い請求の訴えを提起したが、同事件は昭和五二年一二月頃から実質的に審理が行われず、昭和五七年五月二四日付けで原告代理人から代理人辞任届けが提出され、審理中断中であること、(三)会社と全金本山支部との紛争が、昭和六〇年一一月二九日、中央労働委員会における和解により解決した後、会社は、全金本山労組との和解にも努めてきたが、仙台地方裁判所における和解交渉も組合側の拒否で昭和六二年八月に打切られたことなどの事実から判るように、会社と全金本山労組の紛争は長期間にわたり、解決のきざしが見えない。
3 会社は、昭和四八年一月分から本件処分に至るまで、法令上被保険者であつた原告らが負担すべき保険料を立替払いをしてきたところ、右立替払期間中の昭和五八年一月一八日、会社は原告らに対し、右立替払いをしている保険料の支払いを求める訴えを仙台地方裁判所に提起した。
4 以上の事実関係によれば、長期間にわたつて原告らの就労と会社から賃金支払いの事実がないこと、会社と原告らの労使紛争は解決のきざしが見えず、今後原告らが会社に出勤して労務を提供して賃金の支払いを受ける見込みが立つていないことなどから会社と原告らとの雇用契約は形骸化しており、会社と原告らの間の実質的な使用関係は消滅しているものと認められるところ、健康保険法一八条の「其ノ業務ニ使用セラレサルニ至リタル日」、厚生年金保険法一四条二号の「その事業所に使用されなくなつたとき」とは、事業主と被保険者との間の使用関係が事実上消滅したときと解釈すべきであるから、本件処分は適法である。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実1のうち、原告らが約一五年間一日たりとも会社へ出勤したことがないとの点は否認し、その余は認める。原告らは、会社に対し就労させるよう求めて毎朝会社正門まで出勤しているにもかかわらず、就労を拒否された。同2のうち、仙台地方裁判所における和解交渉は組合側の拒否で打切られたこと及び解決のきざしが見えないことは否認し、その余は認める。右和解手続きでは、会社と組合双方の和解案に開きがあつたにすぎない。同3は認める。
五 原告の主張
1 本件において原告らの雇用関係が消滅したと認めるべき事情はない。
原告らは、会社から解雇された事実はなく、依然として同社の従業員の地位にあり、雇用関係は継続している。
現在原告らが就労していないのは、労使紛争に端を発し、就労場所をめぐつて労働委員会及び裁判所で係争しているからである。
使用者は、労働者に対し労働についての指揮命令権があり、労務提供の場所についても命令権限がある。しかし、右権限も無制限なものではなく、不当労働行為に該当するような違法な場合は容認されない。会社は、原告らを別棟に就労させようとしているが、右取扱は、宮城県地方労働委員会の昭和五一年三月一九日付けの決定で不当労働行為にあたるとされた。原告らは、不当労働行為にあたるような場所で、労務を提供することを拒否しているにすぎず、労務の提供一般を拒んでいるわけではない。原告らはロックアウトされた時点での原職において労務提供することを求め、会社で働く意思と用意を備えているのに、会社が原告らの労務提供を拒んでいるにすぎず、原告らと会社の雇用関係は消滅したとはいえない。このような経過があるにもかかわらず、被告は、原告らと会社の雇用関係が消滅したとする認定をしたことは、裁量を逸脱したものである。
2 会社から原告らに対し「別棟で会社の指示する就労条件で就労する意思があるのか否か」の意思確認の通知が文書でなされ、原告らはこれに応じなかつたことをもつて、就労の意思がないことの根拠とされ、被告が雇用関係は消滅したとの認定をしたと思われる。しかしながら、原告らは労務提供の場所をめぐり、裁判所及び労働委員会で争つているのであるから、就労の意思があることは明白である。
3 原告らと会社との紛争の経過に照らし、会社は原告らから分裂していたグループとの間で和解が成立したため、これにならい原告らとも同様劣悪な条件で和解をせんと画策し、原告らがこれに応じないとみるや経済的攻撃の手段として本件処分手続きをとつたものである。右行為は不当労働行為にあたる。本件処分の申請が不当労働行為で違法であるから、かかる申請に基づく確認処分も違法であり、取消されるべきである。
4 健康保険法一八条は「其ノ業務ニ使用セラレサルニ至リタル日」と規定している。ここにいう「至リタル」とは「もはや使用者に使用されない事になつたとき」と解すべきである。この典型は労働者が解雇された場合である。この場合は使用者は労働者をもはや使用しないという明確な意思表示がある。しかしながら、本件においては、会社は、原告らに対し右意思表示すらしておらず、前記のとおり就労場所をめぐつて争いになつていることから、むしろ意思表示ができない状態にある。
このような状況にもかかわらず、被告は、雇用関係の消滅を認定し、本件処分をしたことは違法である。
第三 証拠《略》
【理 由】
一 請求の原因事実1乃至4は当事者間に争いがない。
二 《証拠略》並びに当裁判所に顕著な事実によれば、原告らがかかわつている会社との労働争議の経過につき、以下のとおり認められる。
1 昭和二一年頃、会社の中に労働組合が誕生し、昭和三六年、全金本山支部となつた。
2 昭和四六年三月、全金本山支部元副委員長であつた青柳充が、本社工場から広島出張所への配置転換命令を拒否し、会社は、同人を懲戒解雇に処した。右処分に対し、全金本山支部は、「青柳充を守る会」を結成し、解雇撤回闘争を始めた。
昭和四六年八月、右闘争過程で、全金本山支部執行部に批判的な従業員は、同支部を脱退し、本山従組(後に全日本労働組合総同盟本山製作所労働組合と改称された。)が結成された。
3 全金本山支部は、会社に対し、昭和四七年春闘要求を行つたが、会社からの回答を拒否し、同年三月三一日から争議行為に入り、同年五月一五日以降、入出荷拒否闘争を実施した。
4 会社は、入出荷拒否闘争で会社構内にいた全金本山支部組合員を構内から排除するため、特別防衛保障株式会社にガードマンの派遣を依頼し、昭和四七年五月二〇日、右ガードマンにより組合員は排除され、入出荷拒否闘争は終わつた。
5 全金本山支部は、昭和四七年五月二四日付けで仙台地方裁判所に、ガードマン等による組合活動妨害排除の仮処分を申請し、同年五月二九日付けで同地方裁判所は右申請を認容する仮処分決定をした。
6 全金本山支部組合員は、ガードマン問題や前記昭和四七年春闘の賃上げ問題が進展しないことから、ストライキ以外にもサボタージュと目されるような行動を、同年六月頃から同年一一月にかけて行うようになつた。
7 会社は、昭和四七年一二月一八日、全金本山支部に対し、同日午前六時以降ロックアウトを行うと通告し、実施した。
8 全金本山支部は、右ロックアウト以降連日、書面で就労を要求したが、会社はこれを拒否し、本山従組組合員及び非組合員によつて操業をした。そのため、同支部組合員は、本山従組組合員等の会社出勤を実力で阻止しようとしたり、実力で会社構内に入ろうとして、会社と同支部組合員との間で、しばしば衝突が起こつた。
9 会社は、昭和四八年七月二五日午後一時、ロックアウトを解除したが、全金本山支部組合員と本山従組組合員との衝突をさけるため、工場を第一工場と第二工場に分け、フェンスで仕切られた第二工場で同支部組合員が就労するように、同支部組合員各員に就労通知をしたが、同支部組合員は、第二工場での就労を不当労働行為であるとして、拒否した。
10 全金本山支部組合員は、昭和四八年一二月一八日、仙台地方裁判所に対し、別棟就労命令の効力停止等仮処分を申請し、同裁判所は、昭和四九年一二月一九日申請人の別棟就労命令無効の主張はいずれも理由がないとして却下した。
11 全金本山支部、総評全国金属労働組合及び同組合宮城地方本部を申立人、会社を被申立人とする株式会社本山製作所不当労働行為救済申立事件において、宮城県地方労働委員会は、昭和五一年三月一九日、「申立人全金本山支部の組合員全員を、昭和四七年一二月一八日のロックアウト通告時の職務及び職場に復帰させ、就労させなければならない」とする命令をだした。
12 全金本山支部組合員は、昭和五〇年二月二一日、仙台地方裁判所に対し、別棟就労命令不存在確認及び賃金支払を求める訴えを提起した(昭和五〇年(ワ)第一二三号事件)。右事件は事実上の長期中断の状態で、現在も同地方裁判所に係属中である。
13 昭和五五年二月八日、全金本山支部は再度分裂し、原告らが組織する全金本山労組が結成された。
14 原告八重樫、同中野、同長谷らは、昭和五二年八月一日午後七時四〇分頃に会社との団体交渉を終えて帰る途中、会社構内でガードマン、本山従組組合員らから集団的暴行を受け重軽傷を負つたとして、右本山従組組合員、ガードマンらに対し、昭和五五年七月二九日、仙台地方裁判所に損害賠償請求の訴えを提起し(昭和五五年(ワ)第九〇四号損害賠償請求事件)、さらに、昭和五六年一月二四日、会社に対し、使用者責任に基づく損害賠償請求の訴えを提起した(昭和五六年(ワ)第九六号損害賠償請求事件)。
15 会社と全金本山支部は、昭和六〇年一一月二九日、中央労働委員会において、労働委員会規則三八条一項による同委員会の和解勧告に従い和解した。右和解の骨子は全金本山支部組合員全員が退職するということであつた。
16 昭和六〇年一一月三〇日、全金本山支部組合員は、右和解に従い会社を退職し、同支部は解散した。
17 前記原告八重樫、同中野、同長谷らが提起した前記損害賠償請求事件は併合審理されていたところ、仙台地方裁判所は、昭和六二年六月頃、右事件を含めた労使間の紛争全体について和解勧告を、原告ら及び会社に対し行い、原告ら及び会社はそれぞれ和解案を提示した。しかしながら、原告らと会社の提示した和解案に開きがあつたため、和解の成立は難しいとのことで、和解が打切られた。
18 全金本山労組組合員と会社間には、争議が継続中で、前記就労命令不存在確認、賃金支払請求事件ほか、争議に関連した多数の事件が裁判所に係属中である。
三 争いのない事実、《証拠略》によれば、原告らは、会社が全金本山支部組合員に対して別棟工場における就労を提示し、ロックアウトを解除した後の昭和四八年七月二六日から会社が事業主として届け出た原告らの被保険者資格喪失日である昭和六二年一〇月三〇日までの約一五年間、少なくとも原告らの何人かは毎朝会社正門前に集まり、他の従業員と同じ就労場所での就労を要求していたことがあるものの、就労したことは全くなかつたと認められる。
四 しかして、原告らは、会社が原告らに対するロックアウトを解除した後の昭和四八年七月二六日以降原告らの被保険者資格喪失日であるとされた昭和六二年一〇月三〇日まで約一五年間、賃金の支払いを受けていないこと(抗弁事実1)、会社が昭和四八年一月以降本件処分に至るまで、原告らに賃金を支払わなかつたものの労働争議が継続中であつたため、原告らにかかる健康保険料及び厚生年金保険料を納付していたこと、そして昭和五八年一月一八日原告らに対し右保険料中原告ら負担にかかる部分の支払請求訴訟を仙台地方裁判所に提起し係争中であること(抗弁事実3)は、当事者間に争いがない。
五 ところで、健康保険法及び厚生年金保険法の規定に照らすと、健康保険は政府及び健康保険組合が管掌する保険、厚生年金保険は政府管掌保険であつて、強制保険であり、ともに事務費は国庫が負担し、保険給付に関する費用は前者が保険料によつて、後者は保険料及び国庫の負担によつて賄い、保険料は原則として事業主と被保険者が折半して負担するが、納付義務者は事業主とされ、被保険者負担部分は事業主が被保険者の報酬から控除することができるとされているところである(健康保険法一一条、一三条、二二条、二四条、三一条、三五条、七〇条、七〇条ノ二、三、七一条、七二条、七七条、七八条等、厚生年金保険法二条、六条、九条、八〇乃至八四条、八六条、八九条等)。そして、健康保険の被保険者資格は「被保険者其ノ業務ニ使用セラルルニ至リタル日」(健康保険法一七条)に、厚生年金保険のそれは「適用事業所に使用されるに至つた日」(厚生年金保険法一三条)に取得し、前者の被保険者資格は「其ノ業務ニ使用セラレサルニ至リタル日」(健康保険法一八条)に、後者のそれは「その事業所に使用されなくなつたとき」(厚生年金保険法一四条二号)に喪失するとされている。そうすると、両保険の被保険者資格は、一般に事業主との間に私法上の雇用関係がある者ということができる。しかし、保険の適用を受けるための目的で名目的に雇用関係を設定された者は勿論、休職者であつても、事業主において報酬を支払う義務を負わない者は被保険者とはなりえないのであつて、雇用関係の存在は実質的に促えなければならないのはいうまでもない。そして、反面、社会保険も保険であつて、保険関係が継続するためには保険者に対する保険料の支払継続が必要であり、事業主が保険料納付義務者と法定されていることを考慮すると、事業主の将来にわたる被保険者に対する報酬支払義務が消滅するに至つたときは、事業主は被保険者負担部分の保険料の納付義務も消滅するから少くとも保険関係の面においては、雇用関係は終了し、被保険者資格も喪失するというべきである。したがつて、雇用関係の存否につき争いのある場合においては、昭和二五年一〇月九日保発第六八号厚生省保険局長から、都道府県知事あての「解雇の効力につき係争中の場合における健康保険等の取扱いについて」と題する左記内容の通牒は、妥当なものとして支持すべきである。
(一) 解雇行為が労働法規又は労働協約に違反することが明らかな場合を除いて、事業主より健康保険法施行規則第一〇条第二項の規定による被保険者資格喪失届の提出があつたときは、当該事件につき労働委員会に対して、不当労働行為に関する申立(労働組合法第二七条)、斡旋(労働関係調整法第一〇条乃至第一六条)、調停(労働関係調整法第一七条乃至第二八条)、若しくは仲裁(労働関係調整法第二九条乃至第三五条)の手続きがなされ、又は裁判所に対する訴の提起若しくは仮処分の申請中であつても、一応資格を喪失したものとしてこれを受理し、被保険者証の回収(不能の場合は被保険者証無効の公示をなすこと)等所定の手続をなすこと。
右労働法規又は協約違反の有無について、各保険者が一方的にこれを認定することは困難且つ不適当であるから、当該保険者においては、労働関係主管当局の意見を聞く等により、事件結着の見透しを慎重検討の上処理すること。
(二) 右の場合において労働委員会又は裁判所が解雇無効の判定をなし、且つ、その効力が発生したときは、当該判定に従い遡及して資格喪失の処理を取り消し、被保険者証を事業主に返付すること。
(三) 右の場合において解雇無効の効力が発生するまでの間資格喪失の取り扱いのため自費で診療を受けていた者に対しては、療養の給付をなすことが困難であつたものとして、その診療に要した費用は療養費として支給し、その他現金給付についても遡つて支給すると共に保険料もこれを徴収すること。
(四) 第一項の申立又は仮処分の申請に対する暫定的決定が本裁判において無効となり、解雇が遡つて成立した場合には、すでになされた保険給付は被保険者から返還させることとし、又徴収済保険料は事業主からの還付請求に基づいて還付手続をなすこと。
(五) 厚生年金保険における取り扱いについても右に準じて適切な措置を取ること。
六 これらの理を本件についてみるに、前記二ないし四で認定したように、原告らは会社がロックアウトを解除した後の昭和四八年七月二六日から会社が届け出た原告らの被保険者資格喪失日である昭和六二年一〇月三〇日までの間を見ても、約一五年間という極めて長期間にわたり、全く就労しておらず、また会社から原告らに対し賃金が支払われていないうえ、その間会社は原告らに対し、その負担部分にかかる保険料の支払請求訴訟を提起し、これが係争中であること、会社と原告らの労使紛争は解決に直結する大きな状況の変化もなく、今後原告らが会社に出勤して労務を提供して賃金の支払いを受ける具体的見込みが立つていないことなどから、会社と原告らとの雇用契約は形骸化しており、会社と原告らの使用関係は事実上消滅しているものと認められ、健康保険法一八条及び厚生年金保険法一四条二号の被保険者資格喪失事由に該当するので、本件処分は適法である。
よつて、原告らの請求は、いずれも理由がないから棄却し、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 片瀬敏寿)
裁判長裁判官宮村素之は退官のため、裁判官青山智子は転任のため、いずれも署名捺印できない。
(裁判官 片瀬敏寿)